整備完了 : Baldwin Spinet Piano
ボールドウィンは1862年にアメリカ・オハイオ州で創業されたピアノメーカーです。日本での知名度は高くはありませんが、製造元のアメリカではよく知られたメーカーです。
ボールドウィンが一躍脚光を浴びたのは1900年。パリ万国博覧会でグランドピアノmodel112がグランプリを受賞してからです。
アメリカ歴代の大統領が所有していたピアノのリストを見ると、27代大統領ウィリアム・ハワード、33代大統領ハリー・トルーマン、37代大統領リチャード・ニクソン、42代大統領ビル・クリントンの4人の名前をボールドウィンの所有者として見つけることができます。特にハリー・トルーマンはボールドウィンを大変気に入っていました。ホワイトハウスで自らがボールドウィンのグランドピアノを用いて聴衆の前で演奏する写真が残っています。
1962年から1986年までドイツ3大メーカーのひとつベヒシュタインを傘下に収めていました。具体的な提携の記録は残っていませんが、ベヒシュタインから技術者を招聘して共同でグランドピアノを製作したり、散発的ではありますが提携を通じてドイツメーカーの高い製造技術を取り入れようとしていたようです。
1980年代から経営が傾き始め、いくつかの投資会社やメーカーに買収を重ねられていきます。スタインウェイの躍進の陰でボールドウィンは廃れてしまいました。
このピアノはボールドウィンが最も華やかだった1970年代後半に製造されました。本体の高さはわずか95cm。譜面台を含めても約110cmです。優れたデザインも手伝って完全にアンティーク家具の一部として生活になじむことができます。蓋を閉じれば文庫サイズの本を読める簡易的な机として使うことも可能です。
このピアノの構造の最大の特徴はドロップアクションです。打弦機構が底へ沈む構造を持っており、他のピアノでは決して見られない背の低さを実現しています。
しかしながらこの構造は修理と調整が極めて困難です。当社工房に持ち込まれた際はまともに音を出せる状態ではありませんでした。
工房ではまず可能な限り修理を施しました。オリジナルの部品は手に入れることが不可能なのでヤマハ純正部品を加工して代用しています。タッチの調整も全ての行程を、これも可能な限り行いました。その結果として普通に演奏をしても特に違和感なく楽しめるレベルにまで持ってくることができたと自負しています。
経年のため弦のサビや部品の劣化が見られることは仕方の無いことです。そのため調整をしたとはいえタッチにはややバラツキがありわずかながら雑音も聴かれます。
しかしアメリカらしいまっすぐで明るい音色は40年を経過しても失われてはいません。国産では見ることのできない外観。国産では聴くことのできない音。是非実際に触れてその喜びを感じて頂きたいと思います。
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