ショパン国際コンクール推奨楽譜「エキエル版」
こんにちは、楽器センター白山の織田です。
今年はショパン国際コンクール開催されましたね。
先日開催は終わり、反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位に入賞され、日本国内でも大いに盛り上がりました。
コロナ禍で大変なこともたくさんありましたが、Youtubeで(しかも生中継!)演奏を楽しめるなんて贅沢な時間でしたよね……。
世界の頂点を目指すプロフェッショナルたちが使う楽譜って?
2枚目、反田さんが楽譜を持っている写真があります。
これこそがショパン国際コンクール推奨の楽譜「ショパン・ナショナル・エディション」。
通称:エキエル版です。
なぜエキエル版、と言われているかというと、
この楽譜を校訂したのが「ヤン・エキエル」とそのお弟子さんのパヴェウ・カミンスキだから。
ヤン・エキエルは、ショパン国際コンで入賞したこともあるピアニストであり、教育者。
この校訂は、ショパンの生誕150年(1960年)記念の国家事業でした。
エキエル版の特徴はなんといってもヴァリアントの豊富さです。
ヴァリアントとは異稿という意味で、簡単に言えば、ショパンが弟子に対して「この曲のこのフレーズはこんな風に弾いてもいいよ」と書き加えたもの。
これは弟子がショパンの死後、出版した楽譜にのこされていたものを採用しているわけです。
ショパンがサロンなどでこんな風に披露していたのかな、と想像が膨らんだりして楽譜を眺めているだけで楽しいですよ。
エキエル版は日本語ライセンス版が順々に発売されています!
とはいえ、エキエル版は輸入盤の楽譜しかなく、少し高価な楽譜でしたが、
今年エキエル版は日本語ライセンス版が全音楽譜出版社より発売となりました。
まずはバラード、スケルツォ、ワルツ(シリーズA)が登場!かなりお求め安くなりました。
ショパンといえばパデレフスキ版では?
クラシックは特にですが、同じ曲でもいろんな出版社から様々な楽譜が出版されています。
「エディション」とよく言われますが、これは印刷・出版された楽譜個々のもの。
ショパンに限らず、バイエルやブルグミュラーでもいろんな出版社から出ていて、校訂した先生方の個性が出ていますよね。
ブルグミュラーでも音楽之友社は春畑セロリ先生、学研だと田丸信明先生などそれぞれ解説の仕方や学習しやすいように工夫するポイントが違います。
ショパンやベートーヴェンの楽譜では、出版社によって運指やスラーなどのつけ方が違ったりするわけです。
そのなかで、ショパンといえばパデレフスキ版、という方は多いのではないでしょうか。
ピアニストでありながら、第一次世界大戦中のポーランド独立運動に参加し、戦後は首相もつとめたイグナツィ・パデレフスキ。
この校訂は、彼が国家事業として世に送り出され、世界中で普及したエディションです。
ただ、パデレフスキは「フレージングは原則としてショパンに従ったが、パッセージをよりよく理解するためにスラーを追加するなど修正を加えることもあった」と文章を残しています。
彼が生きた時代では、「ショパンはこう書きたかったに違いない!」と校訂者が作曲家になりかわって理想を追求することが多かったのです。
いまはショパンがどう書きたかったのか、その判断をするのは演奏者にゆだねられています。
つまり、校訂はそのための材料を集めておきますよ、というスタンスになってきています。
それはなにより作曲者の意図をより正確に表現したい、という意識が強くなったいまの時代だからこそ、ですね。
5,6年前まではそれでもショパンといえばパデレフスキ版というイメージでしたが、
去年くらいから潮目が変わったのか、エキエル版に買い替えされる方が多くなってきたなというのが印象です。
エディションの違いを知る
エディションについて簡単に書きましたが、じゃあどれが一番いいの?と言われたらそれは私の口から申し上げることはできません。
ルドルフ・ブッフヒンターという世界的に活躍されているベテランのピアニストがいますが、
彼は1つの作品につき、楽譜の種類が6種類あればすべて目を通すと言ったとか。
楽譜から読み取って、自分の表現する曲とはなにか追求する・・・これはプロであれば当然のことかもしれません。
でもこれは音楽を愛好する方にとっても「楽しみ」になるはずです。
エディションについての書籍はかなり少ないのですが、以前こんな本が話題となりました。
文字通り、ショパンの楽譜について詳細に書かれています。
19世紀から20世紀にかけてショパンの楽譜がどんなふうに出版されてきたのか、なんでいまのいままでショパンの作品についての研究が必要なのか・・・楽譜についてはもちろんの事、昨今の最新事情がわかります。
またショパンに限らず、ベートーヴェンやバッハなど作曲家によって楽譜の事情はまったく違います。
ショパン以外はどうすればいいの!という方には、ムジカノーヴァで連載されていたエディションについての講座を一冊にまとめた本をご紹介いたします。
ぜひ楽譜に対する見識を深めてください!
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コンクールは終わりましたが、こういうイベントが開催されるとショパンについて知りたくなってしまうもの…。
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